【 プラチナ #3776 ⑤】 向田邦子が愛用した#3776 [万年筆]
プラチナ#3776を使っていてひとつ残念に思っていること。それは著名な作家の愛用者が少ないことです。作家に人気のある万年筆のトップはモンブランではないでしょうか。
Wikipediaの梅田晴夫のページには、#3776の愛用者として向田邦子の名前が挙げられています。わたしは彼女のエッセイのファンですので、事実かどうか調べてみることにしました。
中学生か高校生の頃、実家の本棚に向田邦子のエッセイがあり、万年筆について書いた作品があったことをぼんやり覚えていました。たしか、愛用の万年筆に「本妻、2号、3号」と名づけていたという内容で、顔のある万年筆のかわいらしい挿絵が入っていたはず。
ネットで調べたところ、どうやら「無名仮名人名簿」という本にありそう。さっそく図書館で借りてきて調べてみました。
ページをパラパラめくっていくと・・・あ、ありました!万年筆のイラストが。挿絵の作者は村上豊でした。
探していた作品は「縦の会」という題名。「本妻、2号、3号」はこう定義されています。
私は万年筆を三本持っている。三本の中で一番書き馴れたのを本妻と呼び、次に書き易いのを二号、三番手を三号と呼んでいた。(「縦の会」より)
万年筆のヘビー・ユーザーは、万年筆のインクの出やすさやペン先の滑りにこだわる人が多いのですが、向田邦子も同じだったようです。
テレビのセリフは、ホーム・ドラマを多く書くせいであろうが、或る程度早く書かないとテンポが出ない。それでなくとも性急(せっかち)なので、万年筆は滑りがよく書き馴れたものでないと、セリフまでいつもの調子が出ないようで焦々(いらいら)する。(「縦の会」より)
・・・うん、うん、その気持ち、よく分かります。
驚いたことに、向田邦子は他人の万年筆を掠奪するのを得意としていたようで、本妻と2号は他人のものを奪い取ったとのこと。狙っている万年筆はよりによって使いやすいコンディションのものに限定していたというから、恐ろしい・・・。
大きな、やわらかい文字を書く人で、使い込んで使い込んでもうそろそろ捨てようかというほど太くなったのを持っておいでの方を見つけると、恫喝(どうかつ)、泣き落とし、ありとあらゆる手段を使って、せしめてしまう。使わないのは色仕掛けだけである。(「縦の会」より)
誰から万年筆を奪い取ったのか、については以下の通り。
第一号:映画評論家の清水俊二氏
本妻:不明。他人からの掠奪品。
2号:某婦人雑誌編集部の敏腕女史。
3号:パリで購入。(これは例外)
その他:某テレビ局のディレクター。
残念ながら、どのメーカーの万年筆を愛用しているのかは分かりませんでした。
次に、向田邦子に関するHPを調べてみると、彼女が出身の実践女子大に寄贈された遺品のページ中に万年筆がありました。
これはウォーターマンの万年筆で、「向田保雄氏が使用していたものを、先が丸く(柔らかく)なって使いやすくなったのをみはからって、保雄氏にねだったもの。」とコメントがついています。
なかなかプラチナ#3776にはたどり着けません。。。
視点を変えて、向田邦子の本を書いている久世光彦について調べてみると、彼女との思い出を綴った「触れもせで」の中に遺品の写真が出ていることが分かりました。
さっそく入手してページをペラペラとめくってみると・・・
あ、ありました。万年筆の写真です。
遺品の万年筆の写真
モノクロで見にくいのですが、どうやら右から3本目はプラチナ#3776のギャザードのようです。写真に写っている10本の万年筆のうち、パーカーの万年筆が6本も入っています。
この本の「おしゃれ泥棒」という作品で、久世光彦は向田邦子に10本以上のパーカーの万年筆を取られた話を披露しています。
遺品の万年筆の写真の中にパーカーの万年筆が何本も入っていたのは、このためだったんですね・・・。
【2009年10月17日 追記】
「向田邦子 ふたたび」にも万年筆の写真が掲載されていました。
黒のプラチナ#3776ギャザードですね。