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【暮しの手帖】 『ジグザグミシンは役に立つか』 直線ミシンの良さを強調した記事(1972年) [ミシン購入関連]

暮しの手帳第二世紀16号(1972年早春号)に掲載されたミシン選びに関する記事。ジグザグミシンと直線ミシンのどちらがよいか?ミシンの販売方法に関する問題提起。

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妻のミシン選びに協力してインターネットでミシンに関する情報を調べているうちに、主婦が使う家電製品を徹底的にテストしていた雑誌『暮しの手帖』にある  ミシンに関するレビュー を読んでみたい、と強く感じるようになりました。
  
ネットでは情報が見つからなかったので、地元の図書館に出かけて古いバックナンバーを調べてみることに。
  
 

 
  
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ここで紹介する「暮しの手帖」1972年早春号では、 『ジグザグミシンは役に立つか』 と題して、「直線ミシン」と「ジグザグミシン」(最近では「コンピュータミシン」「刺繍ミシン」と呼ばれています)を比較しながら、ミシン製造メーカーに対してミシンの販売方法や製品の機能について問題提起しています。商品テストはなく、主婦や業界人へのインタビューで構成された記事です。ちなみに、商品テストは1964年に一度行われていました。(関連記事:1964年の商品テスト
 
ミシンはもともと直線縫いのタイプしかありませんでしたが、ジャノメのホームページによれば、1957年に国産初のジグザグミシンを発売し、1961年にフルオート・ジグザグミシンを発売したことによって日本のミシン業界に「ジグザグブーム」を巻き起こしたとあります。(参考:ミシンの歴史資料館(ジャノメ),創業90周年記念サイト)
  
 
◎記事の構成
 
①古い直線ミシンをジグザグ機能のついたミシンに買い換えさせる販売方法についての問題提起(ジグザグ機能は不要なのに、メーカーはあえて機能が多くて高価なモデルへの買い替えを推奨する点について。)
  
②ジグザグミシンより機能がシンプルな直線ミシンでも実用的である点を強調。
 (実用ではジグザグ機能はほとんど使わないため)
 
③古い直線ミシンでもきちんとメンテナンスすれば十分に実用に耐えるのに、わざわざ古いミシンを下取りして新たにジグザグ機能のついた新しいミシン(機能が多い分、直線ミシンより高価なので利益が大きい)をメーカーがすすめている。
 
 
  
 
妻のミシン選びを行っているうちに、全く同じ観点で「直線ミシンの方が縫い目がきれいだ」と主張しているサイトをいくつも見かけました。
 
この記事が掲載されている暮しの手帖が発売されたのはかれこれ40年近く前なのですが、時代は変わってもいまだに同じ議論がなされているんですね。
 
当時は「主婦は結婚前に洋裁学校に通い、結婚するときは花嫁道具のひとつとしてミシンを買う」という風潮があり、そのために機能がシンプルで年を追うごとに価格を下げざるを得ない「直線ミシン」より、機能を増やして付加価値をつけ、価格を高く設定できる「ジグザグミシン」を前面に出して売る、という商法につながったのではないかと考えています。婚礼用に買うのであれば、高くてもポンと買いますし。
 
さらに、「内職でミシンを使うので、どうせ買うならいいものを」という動機もあったようです。
 
 
印象に残ったのは、退職したミシンのセールスマンの方が「直線ミシンでも十分に使える」と語ったくだりでした。以下に引用します。
 
  

    

(ここから引用) 

・ジグザグなどとんでもないという話

こういう売り方を、当のセールスマンはどう思っているのだろう。

 

・父の親しい人にシンガーのセールスをしている人がいるもんですから、直線(縫いミシン)の方が性能がいいですよってことで、ジグザグにしなかったんです。次男が生まれる前でしたから、6年前(注:1966年)ですよね。

 

それで、このあいだその人にあったときに、最近のジグザグならいいですかって聞いたら、とんでもないっていうんです。ジグザグを売らないと仕事にならないから売ってるけど、本当のことをいうと、かんじんの直線の目がよろけてきたないし、ふちかがりにしてもカーブのところを布が伸びないように縫うにはとても技術がいるとかね、ボタンホールなんかにしても、人前に出られるようなものはなかなか縫えないから、ふつうの人ならパジャマぐらいしか使い道がないっていうんです。

 

ジグザグを売るために、直線を下取りするんですってね。そのたびに、ああもったいないことしているって、とても良心がとがめるんだそうですよ。あなたのは直線だから、いつまでも大事にしてくださいっていわれてしまいました。

 (30代、直線ミシン所有、6年前(1966年)購入) 

 

 

このセールスマンの話は、ぜひ別な人にもたしかめたかったので、いろいろ探した結果、ミシン会社をすでに退職した人の話をきくことができた。

 

・そのセールスマンは、おそらく年配の方でしょうね。若いセールスマンはろくろく直線ミシンのよさも教えられないで、ただ売れ売れでやらされてますから、そういう悩みはあまりないんです。

  

昔からこのことを知っている人はどこの社の人も、たいへん矛盾を感じるといっていますね。結局は作りすぎなんです。それがわかっていても、作らないと仕事がなくなりますから、作って売るんです。ジグザグより直線がいいなんていったら、ミシン持ってる人は買いませんからね。ジグザグが当たり前なようにいうしかありませんね。

   

下取りがもったいない、という気持ちはじつによくわかります。立派に使えるミシンを鉄くずにするんですから。はじめによく試して変えば、修理できないミシンなんてまずないんです。

  

私はいまでも、ミシンというのは、そういうものだというプライドみたいなものを感じています。テレビやテープレコーダーみたいに五年やそこらで直せなくなるものとは違うんです。

   

買うときは、縫い目のよくわかる人に薄地の布を縫ってみてもらって、同じ型のミシンを何台かくらべて、いちばんいいのを買うのがいいのです。メーカーの封をしたままのミシンを喜んではいけないのです。そういうのが届いたら、せめてすぐ縫ってみることですね、何ヶ月もたってからでは、返せませんから。

   

 ・ ・ ・

 

この人のいう、ミシンの作りすぎがはっきりしたのは、昭和40年(1965年)である。この年、はじめて生産台数が4百万台を越し、そしてこの年、はじめてジグザグの台数が、直線を上まわった。

終戦からこの年まで20年間、毎年20万台ずつの割で増えてきた。戦前の最高が昭和15年(1940年)で、年産約15万台だったから、20万台ずつの増加というのが、いかにたいへんな成長力だったかがわかる。

ところが、この年で成長は終わった。以後は、年によって、370万台から440万台の間を上下するようになってしまった。

おととし(1970年)の生産台数は378万台(通産省調べ)、その中で直線ミシンのしめる割合はわずか22%になってしまっている。去年の統計はまだだが、おそらく2割を切るだろうと予想されている。(家庭用ミシン工業会の話)

私たちが、直線ミシンのよさに気がついても、すでにジグザグしか売っていない、という時代がはじまろうとしているのである。

(引用おわり)

 


 

この記事が書かれてから40年近く経過しています。その間、ミシンの基本構造に関して大きな進歩は無いと考えられます。記事では将来的に直線ミシンがなくなってしまうことを危惧していましたが、幸いなことに現在でも直線ミシンのモデルは継続して販売されています。

 

いろいろと調べた印象では、ミシンは直線縫いがもっともシンプルな構造であり、縫い目が美しく仕上がる。一方、針が前後左右に動く刺繍ミシンになると、駆動部分の機械構造が複雑になると同時に直線縫いの美しさが犠牲になるのではないか・・・と感じました。

   ・  ・  ・

記事の最後に日本のミシン生産台数の数字が掲出されていたので、ミシンの生産台数が最近はどのようになっているのか調べてみました。

 

調査記事: 【ミシン調査】日本のミシン生産台数推移(グラフあり)   

 

 

関連記事:   

 【ミシン】10万メートル縫えますか?~『暮しの手帖』電気ミシンの商品テスト~(1964年夏号)

 

 

 


 

 

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